銀
しろかねさん (928slqp9)2024/3/11 22:13 (No.1104775)削除『それは決して正義とは呼べない。』
「世界は綺麗で成り立たせる事なんて出来ないんスよ、知らなかった?……センパイ。あぁ、もう答えられないか。」
そう、怪しげな笑みと共に物言わぬ骸となった上司……とは言っても、所謂無能だが_を足蹴にする。
綺麗事は世界を美しくする、なんて誰が言ったか。そんな綺麗事、反吐が出る。
ならば、警察官なんて職業は不要だろう。
自身が清く、正しく、美しく……そんな警察では無いので、余計にそんなことを思うのだ。
「九頭竜、どうした。……あぁ。」
「やだなぁ、俺は何もしてないって。勝手に死んだ、それだけ。」
「犯人は?」
「もう夏目さんがひっ捕らえに行きましたよ、朱雀警部。」
軽口を叩きながら、上司に言葉を紡ぐ。
生憎だが、班員……。この警部の班のメンバーは、自身のことを理解しているし黙認しているのでつくろうだけ無駄なのだ。そんな時、無線が音を立てた。
「はいすz『朱雀けーーーぶ!捕まえましたーー!あと九頭竜お前!裏切り者って言われてるぞ!!』うるさっ。」
「今更。地獄に落ちろと言っておけ。」
『地獄に落ちろだってさ!』
無線の先からギャンギャン騒ぐ声がする。
「はは、喚いてやがる。」
「夏目、九頭竜。帰ったら顛末書。」
「うぇー……ジョーダンっすよちゃんと書きます。」
『なんだっけ、今回死んだの。とりあえず口裏は合わせるから九頭竜考えといてな!』
「それ俺じゃなくて警部の仕事じゃね?」
「俺はこう見えて忙しい。」
「煙草に火をつけながら言いますかそれ」
『九頭竜も朱雀警部も人の事言えなくね?』
今日もまた、闇にひとつの真実が葬られていく。治安維持も、楽な仕事では無いのだ。……なんて、建前と共に。
「これ?あぁ、気にしないで欲しいかな。俺のちょっとしたコネとか、そういうの。……大丈夫、『公安』じゃないし、違法捜査なんてしないって。違法捜査はね。」
違法かどうか、そんなギリギリを攻める。そこまでしなければならない事象だって、少なくない。
暗黙の了承になりつつある、朱雀班のやりたい放題……という名の、「オソウジ」。
たった3人、されど3人。三人寄れば文殊の知恵、とは誰が言ったか。悪知恵だって、知恵は知恵。嘘か誠か、様々な噂が飛び交うこの3人。そんなことなどものともせずに、今日も彼らは「捜査一課」として街に出る。
「法の正義」なんて言葉を盾に、なんだってやっていく。
「綺麗事で世界は美しくなる、なんて誰かが言ってましたけど。そんなの、幻想論っスよね。」
「どうした?頭でも打った?」
「死ぬ前にお前の手帳俺にくれな。」
「血も涙も慈悲も無い。遺品は好きにしてくださいな。」
物陰から様子を伺う者たち。
裏社会、表を追い出された者、日陰者。
そんな者たちの「拠り所」で「帰る場所」…という名の、甘い罠。
彼らは全部、撒き餌。死んでも構わないし、心も懐も痛まない。
「さて、俺は行きますよ。『私』として……ね。」
穏やかな、優しい姿をしているだけであらかた騙されてくれるのだから安いものだ。革靴の音を響かせた。
「きっと俺は、ロクな死に方をしないさ。」
友人に一言だけ告げた、本心。当たり前だ、こんな警察官の風上にも置けないような存在が、名誉ある死も、穏やかな最期も迎えられるわけが無い。その事を憂いたりはしないが。
捕らえた犯人の転がった眼鏡を革靴で割りながら、鼻で笑うように言った。
「地獄で待ってな、クズ。」
俺はどうせ、地獄に行くのだから__
「プライドで飯は食えないし、意地で仕事は続かない。志だけでは生きていけないし、夢じゃ明日は見れない。俺で警戒されるなら、警戒されない私になりきればいい。ほら、今日も『市民を守る正義の警察官』が居るよ。その裏に、どんな代償があるかなんて、みんな知らずに喜べばいいさ。」
彼は今日も、誇りも目標も無く警察官として街を行く。